「雪」(中谷宇吉郎)

雪の性質は研究され尽くしたか?

「雪」(中谷宇吉郎)岩波文庫

ここ何日かの冬型の気圧配置で、
こちらは雪が降り続きました。
今日取り上げるのはこの「雪」。
本書は著者自身が行った
「雪」の研究をもとに、
科学的考え方、探究の仕方について
解説している、古典的名作です。

第1章 雪と人生
雪についての雑感が書かれてあり、
単なるエッセイのように
思えるのですが、
そうではありません。

昭和初期、
日本がアメリカから購入していた
最新式のラッセル車が、
たびたび故障している現実を取り上げ、
「米国で役立つものが
そのまま雪質の全然違う日本で
役立つと考えてはいけない」と、
問題点を指摘しています。
そして、「日本の雪の性質を
根本的に研究することによって、
日本のために真に役立つ除雪車が
必ず出来る」と、
目指すべき到達点を提示しています。
さらには「ラッセル車一台の
購入費をなげだすことにより
それが可能になる」と、
到達への道筋まで示しているのです。

この、
「問題点の発見」
「到達点の設定」
「解決の道筋の見通し」
これこそが近年
小中学校および高等学校での
「総合的な学習の時間」等で
行われる「探究」の手法なのです。
今から80年も前に、
すでに「探究」の考え方が
明快に提示されていたのに
まずは驚きました。

第2章 「雪の結晶」雑話
雑話となっていますが、
ここに「解決の道筋」つまり
「雪の結晶」を解明する具体的な
探究の過程が描かれています。
といっても、高度な実験機器を
用いているわけではありません。
降ってくる雪をガラス板の上にのせ、
顕微鏡で観察する。
ただそれだけです。
こんなにも簡単な方法でも、
世界に向けて発信できる研究が
可能であるという事実に、
また驚かされました。

以後、第3章では
研究によって得られた
結果のまとめ方・分析の仕方について、
第4章では
研究の発展のさせ方について
書かれてあります。

3章4章はやや難しい記述があるのですが、
1章2章は中学校3年生であれば
十分理解可能な内容です。
中学校の図書館に常備すべき一冊です。

さて、第1章の終末に、
このような記述があります。
「雪の性質が
 本当に研究し尽くされた時、
 雪は現在のように
 恐ろしいものとして、
 われわれに
 迫らなくなるであろう。」

雪の性質はまだ、
研究され尽くしていないようです。

※本書と並んで、「科学の方法」(岩波新書)が
 中谷宇吉郎の名著です。
 学生時代に読みました。
 こちらも機会を見て
 紹介したいと思います。

(2019.2.11)

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